時と狭間 第3話

 誰かに揺すられていることに気付き、私は目を覚ました。相手を確認すると、見覚えがあるような気がするが、どうしても思い出せない。辺りを見回すと、もう日が暮れていた。ここはどこだろうか。見たところ、どこかの学校のグラウンドのようだが……。
「あんた、大丈夫ですか? なかなか起きないんで、心配しましたよ」
 この男は紐の付いた名札をぶらさげていた。恐らく、この学校の教師だろう。名前は山田昭彦。やはり、この名前も聞いたことがある。山田昭彦……。
「お前、昭彦か?」
「はい?」
 思い出した。こいつは学生時代の長い大親友だった奴だ。
「ほら、隆介だよ。高木隆介」
 名前を言って思い出したのか、昭彦の表情が明るくなる。
「お前、隆介かよ。全然気付かなかった。危うく警察に通報するとこだったぞ、おい」
 昭彦は必死に笑いを堪えながら言う。昔とあまり変わらないようだ。
「お前、教師になったんだな」
「あぁ。大学卒業して、猛勉強したんだ」
 昭彦と大学は違ったが、私たちは幼稚園から高校まで、ずっと一緒だったのだ。中学生のころから不気味に思い始めていたくらいだ。
「夢、叶って良かったな」
「ありがとう。なあ、俺と隆介が仲良くなったきっかけ、覚えてるか?」
「もちろん」
 小学一年生の遠足の時、昭彦がお弁当を持って来るのを忘れたのだ。私のお弁当を分け合って食べるつもりだったが、結局昭彦がほとんど食べてしまった。最初はそれで仲が悪くなった。だが、喧嘩をする内に、段々と仲が良くなっていった。三年生になった頃は、もう大親友だった。
「ってことは、俺たちの功績も覚えてるよな?」
「覚えてるさ。僕と昭彦で、連続空き巣犯を捕まえたんだったな」
 中学二年生の冬の夜。私と昭彦は学校から帰る途中だった。辺りが暗いこともあり、急ぎ足で帰っていた。私の家のすぐ近くまで来た時、近所の人の家から見知らぬ男が出て来たのだ。最近、連続空き巣犯が現れたことを知っていたので、私たちはすぐさま取り押さえた。
「あの空き巣犯の怯えた顔、今思い出しても笑えるよ」
 私がそう言うと、昭彦は顔を真似して怯えだした。
「おぉ、助けて。もうしませんからー」
「全然似てない」
 私たちはしばらく笑い合う。少し経った時、昭彦が思い出したように慌て始める。
「いっけね。テストの丸付け、まだ終わってないんだった」
 そう言われ、初めて昭彦が家に帰る途中だったことに気付く。
「なら、早く行った方が良い。今日は楽しかったよ」
「また今度会ったら、じっくり話そうぜ。今日はありがとうな」
 笑顔でそう言うと、昭彦は走り去って行った。
 一人になって思い出す現実。そうだ。私は一人なのだ。夏井さんや昭彦には出会った。だが、未だ他の人に会えない。一体どうなっているんだ。私は頭がおかしくなったのか?
 また睡魔に襲われるかと思ったが、今度はまったく眠たくならない。だが、そう思った瞬間、辺りの景色が一瞬にして変わった。